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大阪高等裁判所 昭和49年(行コ)38号 判決 1977年3月31日

神戸市葺合区八幡通五丁目六番地の七

控訴人

王金添

右訴訟代理人弁護士

大塚俊勝

神戸市葺合区中山手通三丁目二一

被控訴人

神戸税務署長 中村武雄

右指定代理人

細井淳久

西田春夫

今福三郎

河本省三

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は、「原判決を取消す。被控訴人が控訴人に対し昭和四一年四月六日になした控訴人の昭和三七年分所得税の再更正及び過小申告加算税の賦課決定を取消す。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は、主文同旨の判決を求めた。

当事者双方の主張及び証拠関係は、控訴代理人において、甲第二五号証、第二六号証の一、二、第二七号証、第二八号証の一ないし三を提出し、当審証人平井城、同中村重之、同王金鑾の各証言(いずれも差戻前及び差戻後各一回ずつ)、当審における控訴人本人尋問(差戻前及び差戻後各一回)の結果を援用し、原審で提出された乙第一五号証の一ないし三の成立の認否を「認める」と改め、当審で提出された乙第二二号証の一ないし四、同第四二ないし四八号証、同第五二号証、同第五三号証の各成立を認め、同乙第二三ないし四一号証、第四九ないし五一号証はいずれも不知と述べ、被控訴代理人において、乙第二二号証の一ないし四、第二三ないし五三号証を提出し、当審証人中村重之の証言(差戻後)及び当審における控訴人本人尋問(差戻後)の結果を援用し、当審で提出された甲第二五号証、同第二七号証、同第二八号証の一ないし三の各成立を認め、同甲第二六号証の一は官署作成部分の成立を認めるが、その余の部分は不知、同甲第二六号証の二は不知と述べたほかは、原判決事実摘示と同じ(但し、原判決三枚目裏五行目の「租税回避」の次にある「のみ」を削除し、六枚目表一行目の末尾に「なお、王金鑾の昭和三七年度分所得税のうち本件譲渡と重複する部分は、本件再更正をした昭和四一年四月六日に取消し、同日同人に通知した。」と付加し、六枚目裏一二行目の「度中である」を削除し、そのあとに「八月一日であり、同日その代金債権、即ち収入金額の権利が確定した」を挿入し、一六枚目表(別表二)の下欄外に、「本件譲渡資産のうち居住部分の割合は、一四二坪一合二勺中二四坪一合五勺の割合、即ち一割六分九厘九毛である。」と付加する。)であるから、これを引用する。

理由

当裁判所も、控訴人の請求は失当であると考える。その理由は、次のとおり付加、訂正するほかは、原判決の説示するところと同じであるから、その理由記載をここに引用する。

一、原判決九枚目表六行目に「第一七号証および」とある次に「原審並に当審(当審では差戻前及び差戻後各一回)」を、同じ行の末尾に「および」とある次に「原審並に当審(当審では差戻前及び差戻後各一回)における」を付加する。

二、原判決一〇枚目裏二行目から三行目にかけて「認められる」とある次に「(右甲第一九号証および成立に争いのない乙第一号証によると、王金鑾が雑所得として申告した部分も全額が減額更正されたことが認められる。)」を付加する。

三、原判決一一枚目表二行目の「そして」から一一枚目表末行までを次のとおり改める。

「そして、成立に争いのない乙第一〇号証の一、二、同第一一号証の一、同第一二号証、同第二一号証の一、原審における控訴人本人尋問の結果により真正に成立したことが認められる甲第一ないし七号証、原審並に当審(差戻前及び差戻後各一回)証人王金鑾、同中村重之の各証言の一部及び原審並に当審(差戻前及び差戻後各一回)における控訴人本人尋問の結果の一部を総合すると、(イ)昭和三七年八月一日、控訴人と大光物産との間及び大光物産と王金鑾との間では、いずれも本件土地だけについての売買契約書が作成され、本件建物については翌三八年三月末日の評価により売渡すことを約束する旨の覚書が作成されているけれども、これと同じ日に作成された売主を王金鑾、その連帯保証人を控訴人、買主を有楽土地とする売買契約書(甲第三号証)には、本件譲渡資産(本件土地建物)を一括して代金三、五〇〇万円で売渡す旨が記載されていること、(ロ)有楽土地から右の昭和三七年八月一日に支払われた金二、三〇〇万円は、本件土地建物を一活した右代金の内金として支払われていること、(ハ)同月二日に本件土地についての所有権移転登記を経由し、本件建物については所有権移転請求権保全仮登記がなされたにとどまつているけれども、本件建物は取毀しの目的で売買の対象に含められたもので、所有権移転登記をする実質的な必要も利益もなく、現に有楽土地への所有権移転登記を経ないままで取毀されて、滅失登記がなされたこと等の事実が認められ、甲第二五号証もこの認定を左右するに足らず、他に右認定を左右すべき証拠はない。ところで、右認定事実によると、本件譲渡資産の売買契約は昭和三七年八月一日に成立し、本件土地建物を一括した売買代金債権、即ち旧所得税法(昭和二二年法律第二七号)第一〇条第一項にいう「収入すべき金額」が確定したものと認めるのが相当である。したがつて、本件建物の譲渡によつて収入すべき金額は、本件土地の譲渡によるそれと同様に、昭和三七年八月一日に確定したものというべきであるから、右収入を昭和三七年中の資産譲渡による収入とした被控訴人の認定に違法はない。」

四、原判決一一枚目裏一行目から一二枚目裏二行目までを次のとおり改める。

「3、本件譲渡資産の譲渡による収入金額について

前顕甲第三号証によると、本件譲渡資産の代金額が三、五〇〇万円である旨の記載がある不動産売買契約書が作成されていることが認められ、また原審証人中村重之、同王金鑾の各証言によると、右金員は昭和三八年二月二八日頃有楽土地によつて完済されていることが認められるが、乙第一五号証の一ないし三の各存在自体によつて、有楽土地が韓宗欽なる者に移転補償並びに立退料名義で昭和三七年九月一日八〇〇万円、同三八年一月一四日五〇〇万円、同年三月一日三一七万円以上合計一、六一七万円を支払い、韓宗欽なる者がこれを受領した旨の領収書が作成されていることが認められる。

ところで、被控訴人は右の一、六一七万円も控訴人に支払われたものであると主張するので検討するに、右乙第一五号証の一ないし三、成立に争いのない乙第二号証、同第九号証、同第一〇号証の一、二、同第一六号証及び原審並に当審(差戻前及び差戻後各一回)証人中村重之、同平井城の各証言の一部を総合すると、

(一)  控訴人が本件譲渡資産(土地建物)を有楽土地に売却すると同時に、本件土地の代替地として三筆の土地を有楽土地から代金一、六一七万円で購入し、この代金と本件譲渡代金のうち第一回支払分二、三〇〇万円とを対当額で相殺しているけれども、前記領収書(乙第一五号証の一ないし三)において韓宗欽に支払われた旨記載されている金額は、右相殺に供された右代替土地の代金額と一致していること、

(二)  韓宗欽名義の前記領収書(乙第一五号証の一ないし三)に同人の住所として記載されている神戸市垂水区塩屋町二〇五」には韓宗欽なる者は居住せず、同市における外人登録票にも韓宗欽なる氏名は登載されておらず、その実在することが甚だ疑わしいこと

(三)  有楽土地から韓宗欽と称する者への支払が三回とも控訴人の実兄である王金鑾の立会のうえ、行われていること、

(四)  本件土地建物の売買は、もともと明治生命が本件土地を使用したいため(本件建物は前示の如く、取毀す目的で買受けた。)有楽土地に依頼して買収してもらい、これを一旦有楽土地が取得後同会社から明治生命が買受けるという手筈の下に行われたものであり、明治生命から有楽土地に対して買受代金として予め提示していた金額は五、三〇〇万円であつたところ、控訴人が有楽土地へ売却した金額として主張する三、五〇〇万円と明治生命の右提示額との間にはかなりの開きがあるのに比し、控訴人主張の右売買代金額と韓宗欽に支払われたものと主張する一、六一七万円とを合算すればその金額が明治生命の呈示していた希望買受代金額にほぼ匹敵すること、

が認められ、以上の事実に、既述のところ(引用にかかる原判決理由説示)から明らかなように、控訴人が本件売買による収入金額を分散させることによつて課税を免れるため、本件土地建物を控訴人から一旦、自己がその代表者である大光物産に譲渡し、同会社から更に実兄の王金鑾を経て有楽土地に譲渡すべく作為したという事実並に弁論の全趣旨を総合するときは、前記一、六一七万円は被控訴人の主張するとおり、真実は本件売買代金として支払われたものである(従つて、売買代金は前記の三、五〇〇万円と右一、六一七万円の合計額五、一一七万円である。)のに、控訴人が租税回避のために、自己の身代りとして韓宗欽なる架空名義を付した第三者を仕立てて、この第三者に移転補償費並に立退料の名目で支払われたような形式を作出して、売買代金五、一一七万円のうち一、六一七万円だけは売買代金とは別個の支払であるかのように仮装したものと推認するのが相当である。なお、原審並に当審(差戻前及び差戻後各一回)証人王金鑾の証言、原審並に当審(差戻前及び差戻後各一回)における控訴人本人尋問の結果うち右認定に反する部分はにわかに措信しがたい。

それゆえ、控訴人の本件譲渡資産の譲渡による収入を五、一一七万円とした被控訴人の認定は適法である。」

そうすると、控訴人の請求を棄却した原判決は相当であつて、本件控訴は理由がない。よつて、民訴法三八四条、八九条を各適用して主文とおり判決する。

(裁判長 裁判官 日野達蔵 裁判官 荻田健治郎 裁判官 尾方滋)

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